『テストジャンパー』
長野オリンピックのスキー、ジャンプ競技でテスト・ジャンパーを務めた高橋竜二さんの父が息子に言った言葉である。

高橋竜二さんは生まれつき耳が聞こえない。
でも父は諦めなかった。他の子どもと同じようにスキーをさせた。

アルペン選手を目指した時にある壁にぶつかった。

「スタートの合図が聞こえない」

それなら・・・とジャンプに転向した。しかし、ジャンプは風の音が頼りなのだ。

父と二人三脚で頑張ってきた。長野オリンピック直前に行われたSTV杯。
最後の代表選考も兼ねたこの大会に彼は挑んだ。

1回目で首位にたった。そして2回目は130mの特大ジャンプ。彼は優勝した。

長野オリンピック会場。彼はそこに立っていた・・・。
テスト・ジャンパーとして。代表には選ばれなかった。

長野オリンピックの前に長野の小学生達から彼に手紙が届いた。
その応援の手紙に彼はこんな言葉で返信している(高橋竜二さんの言葉より)

「運命はあきらめるな」とお父さんが、そしてお母さんが僕に教えてくれた。
         ・・・・・
思いは力だ。夢は必ず現実となる。
         ・・・・・
僕は今、生きている。みんな僕を見てくれたか。
         ・・・・・
挑戦なくして、成し遂げられた偉業はいまだかつて一つもない。

長野オリンピックのテスト・ジャンパーとして彼は飛んだ。131mの超特大ジャンプ。
決して記録に残るわけではない。

しかし、あの長野五輪で誰よりも私に感動を与えてくれたのは、彼である。