『敗戦から何を学ぶか』
 トヨタクラブW杯決勝(17日、横浜国際総合競技場)欧州王者・バルセロナ(スペイン)はインテルナシオナル(ブラジル)に0−1敗戦。初の世界一はまたも夢と破れたが、ブラジル代表FWロナウジーニョ(26)は厳しいマークの中でも世界NO・1の技術を随所に披露。来年の同大会でのリベンジを宣言した。魅せるサッカーに対し、徹底したカウンター一発でバルサを沈めたインテルナシオナルが初の世界一に輝いた。

 その瞬間“魔術師”から笑顔が消えた。4年前の日韓W杯で歓喜に沸いた横浜の夜空を、呆然とした視線がさまよった。

「今の気持ちを一言で表すなら『悲しみ』。試合に負けた時は、いつもそうだ。人生とはこういうもの。サッカーはこの繰り返しなんだ」

 試合中ですら笑顔を絶やさないラテン男は、そこにはいなかった。

 生まれ故郷ポルトアレグレを本拠とするインテルから徹底マークを受けた。創立107年、数々の栄光を手にしてきたバルサにとって初の世界タイトルのチャンス。しかし伝説的名手クライフが率いた92年のトヨタ杯同様、再び戴冠を逃した。

 相手のインテルは自身の出身グレミオと同本拠のライバル。ゴール裏のインテル・サポーターからはボールを持つ度に大ブーイングを受けた。そんな中でもロスタイムにポルトガル代表MFデコからのパスを見事な右足さばきでゴール前に浮き球パスを送るなど、最後まで“マジコ(魔術)”を見せ続けた。しかし力及ばなかった。ブラジル代表として臨んだドイツW杯に続く屈辱だった。

 守らねばならない誓いがあった。ポルトアレグレに住む甥のジエゴ君(12)は、インテルのユース所属。大会前、若き日の自分と同様、デコボコのグラウンドで草サッカーをする甥に「インテルには悪いけどゴールを決めるよ」とジョーク交じりに宣言した。

 自らを目標にする甥との約束は、もちろん単なるライバルへの嫌がらせ発言ではない。恵まれない環境からでも世界一になれることを証明するためのもの。最高峰の舞台で敗れはしたが、その“マジコ”は確実に、全世界のサッカー少年に希望を与えた。

「きょうのことは忘れて欧州CLに専念したい。そしてまた来年、ここに戻ってきたい」

 再び欧州の頂点に立ち、この地に舞い戻る。

「この敗戦で、もっと素晴らしいチームになるかもしれない」

 そんなライカールト監督の言葉は、ロナウジーニョのためにある。

 サッカーのトヨタFIFAクラブワールドカップ(W杯)は17日、南米王者の「連覇」で幕を閉じた。欧州王者のバルセロナ(スペイン)は世界的なスターを揃えながら、インテルナシオナル(ブラジル)に0―1で敗れた。

 バルセロナのライカールト監督は「スポーツである以上、起こりうる結果」と悔しさを押し殺したが、バルセロナには二つの誤算があった。

「対戦相手からは、何が何でもこのタイトルを取るという『飢え』を感じた」。

 指揮官の言葉がいみじくも象徴しているように、一つ目の誤算は準備面で大きな差が出たことだ。

 他のクラブは遅くても7日までに来日し、試合に備えていた。対照的にバルセロナが到着したのは開幕後の11日。9日にはスペイン1部リーグを戦っており、選手は時差による睡眠不足や長旅の疲労を訴えていた。14日の準決勝は「フィジカルの不調をメンタルで補う」(ライカールト監督)ことで北中米カリブ海のアメリカ(メキシコ)を4―0で降したが、蓄積した肉体的ダメージは、中2日という短い間隔では回復できなかった。

 もう一つの誤算は、負傷者の続出だ。主力FWのエトー、メッシが故障で長期離脱。サビオラも故障明けで計算できず、FWグジョンセン、ジュリの運動量が落ちても代えづらかった。前線以外でもMFエジミウソンが体調不良を訴えて欠場。決勝ではDFザンブロッタが前半終了間際に故障し、早々と1枚目の交代カードを切るはめになった。これも、過密日程の影響がないとは言い切れない。

 各国代表を揃えたバルセロナとは対照的に、インテルナシオナルに現役ブラジル代表はいない。南米王者といっても、スターが欧州の大クラブに流出する現状では、選手個々の能力や知名度は大きく劣るが、勝利への執念や闘志、準備では上回っていた。

 従来のトヨタカップを発展的に解消し、国際サッカー連盟が自ら運営する、6大陸連盟王者による世界一決定戦に衣替えして2年目。今年からはクラブW杯と呼称も改まった。リバプール(イングランド)を倒した昨年のサンパウロ(ブラジル)に続く南米勢の勝利は、トーナメント形式に変わって権威も上昇した大会を、「地力」だけで勝つことの難しさを物語っている。

 負けは誰にとっても辛いこと。ロナウジーニョにとっても同じ。でも、ただ立ち止まって涙していても何も始まらない。今年と同じ1年はもうない、しかし何もしなければ来年も今年と同じ1年になる。
 敗戦から何を学ぶかが大切。今年足りなかったもの、それは『自信、信頼、感謝』である。